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■豚の報い

1999年 カラー118分【サンセントシネマワークス】
監督・脚本:崔洋一 原作:又吉栄喜『豚の報い』
小澤征悦/早坂好恵/あめくみちこ/上田真弓

ある日豚がスナックに乱入、パニック状態になった店のネーネー和歌子は魂(マブイ)を落として(失神して)しまう。居合わせた常連客の正吉は和歌子のマブイ込めのため、真謝島の御獄(ウタキ)ヘ行き、祈りを捧げよう(ウガンをする)と持ちかける。女たちはそれぞれの抱える過去の傷のために、正吉は12年前に風葬された父の骨を拾うために。こうして男1人とたくましい女3人の厄払い珍道中が始まる・・・

 
 

●『聖と俗、混然一体のパワー・・・豚に祝福された聖人』 by と

 
 

『聖と俗、混然一体のパワー・・・豚に祝福された聖人』  by と

マリーゴールドを見た直後で頭は小澤征悦で一杯、そしてタイミング良くAmazonの薄べったい封筒が届いた。思いついたら即買いできてしまう悪魔の囁きネット通販。こちらは「東京マリーゴールド」とは打って変わって、生命力充溢の人間バンザイ・崔洋一監督作品。だいぶ前に一度見ているが、小澤征悦氏の記憶はか〜な〜り薄く、「さくら」で見てもかなり長い間一致せず(汗)。原作(芥川賞受賞)も発売当時読んでいるし沖縄好きだし・・・今回は小澤見たさだし(笑)、ものすごく贔屓目である。ぐっとこらえて本は開かず。あれこれ比べるのも面白いが、まず映画は映画として・・・。
しかし、小澤征悦氏、映画デビュー作だけあって、やっぱちょっと堅いところもあり?この作で既に自然体の演技は好ましいものの、なにせひとり標準語だから浮きまくる。(下記でねちねち)

■ただ生きるために生きている
ベースラインに流れている猥雑なほどたくましい生命力。解体した豚に吐き気を催すか、「ブーちゃんカワイソウ」と突っ伏すか、「・・・でもおいしそう」と食っちゃうのか・・・。食っちゃうんだよなぁ。黙々と。
ただ生きるために生きてている―食べて繁殖して死ぬ。ちょこっとそれ以上の欲に向かってもがき、でも結局メシ喰ってセックスして寝てやがて死ぬ。子は当たり前のように生を繰り返す。淡々と繰り返されるそういう生が溶け出したような、南の島のみっちり詰まった空気がなぜか乾いているのは、泥や体液のにおいがしそうなところで、ものごとが妙に淡白になり、鼻先でかわされるからなのか。地面からちょこっとだけ浮いて土を掠めているようなリアリティのなさと、しぶとく猥雑なたくましさ。それらが入り混じった満月の夜の『おはなし』・・・。

■俗と渾然一体の聖をになう巫女?
豚は沖縄では家屋敷の守り神、「豚神(ウアヌウカミ)」という聖なる存在なのだそうである。豚小屋と便所が同じで、そこに守り神が存在している、俗と渾然一体の聖。豚小屋で生まれ、豚の闖入によって女たちを率いて神の島に渡り、一人だけ豚の胆にもあたらない正吉は、どうも豚という聖性と大変縁深いように位置付けられているような。まるで豚に祝福された聖人。
ネーネーたちが担う俗性、したたかな生命力に対して、聖を担って受けて立つ正吉君。豚の祝福を受けたこの男は、濁を併せ持つ聖でなければならない。でなければ、アッと言う間にネーネーたちの濁流に飲み込まれてしまうのだから(笑)。
ここで小澤氏生来の品性が芝居を助け、聖と俗の微妙なバランスをがっちりと掴んでいる。清濁併わせて飲み込む器の大きな品性、これは芝居以前、なのかもしれない…というと役者には褒め言葉ではないのかもしれないが、ともかく小澤氏というヒトの本質なんだろうな。それがはっきりと見て取れ、じつに納得。この際立ちが見たいがために、私的には彼の悪い役、崩れた役を切望しております(笑)。
まるで豚の巫女のような若い男に導かれて、「神の場所」へとカラカラの一本道を下って行く女たちは、神に祈るのと同じ次元で隙あらば聖なる男とヨロシクしたいなどと思っている・・・恐れを知らない強さが、上等!

■ヤマトグチの息子にウミンチュの父は祀れまい
作中小澤氏演じる正吉は沖縄人だが標準語。周りが沖縄出身者のウチナーグチだから日本語字幕付き、の中かなり浮いている。標準語風でイントネーションが沖縄、というのが正吉らしい気がするんだがな。さらには文芸作品的名残りか、ちと書き言葉調のせりふが朗読みたいに浮いている。やっぱりここはオキナワイントネーションでいってくれ〜。無念。
主人公が(思い込みからにせよ)父の死を神に昇華させ祀るという大筋が、ネーネー三人衆に隠れて弱々しい。ただでさえ父親と息子の関係があまり描かれていないので、正吉の存在感の希薄さ=ヤマトから降って湧いたようなキャラクターがますます宙に浮いたままの御獄(ウタキ)づくり。神の島の豚小屋で産み落とされた青年だからこそ、親父の白骨に話しかけて納得するのだがな。ぜひともウチナーグチでいってほしかった。しつこく無念。
ところで、朝の連ドラ「さくら」でも小澤氏演じる桂木先生は郡上出身の東京弁(といっても東京の大学へ行き、その後都市--多分東京--で働いた後I`芽アメリカ留学帰りという設定ではある)、もしや小澤氏、方言演技避けてたりして(笑)・・・「英語のほうが得意」だったり・・・しっかり肌を焼いて小汚いタオル被って見てくれはバッチリなので、ぜひトライしてほしかったなぁ、ウチナーグチ。無口な正吉君せりふ少なめだし(笑)。
ちなみに「釣りバカ日誌」ではついに富山弁を操っているらしいが、鈴木京香とカッコよくスキー?レストラン?のシーンでは標準語らしいという噂もあり。やっぱり勘ぐるワタクシ。・・・苦手なのかしらん??(笑)

と、言ってはいるが所詮贔屓目の小澤マニア。ちょこちょこ細かなところの間合いやトーンに、現小澤征悦を見ては膝を打って喜んでいる(笑)。いや、いいデビュー作品だと思う。これまた、丹念な人物づくりを感じた。

■汝の名は女
ヤマトンチュになってしまった主人公をくってしまった(いや文字どおりではないが食われそう・笑)ネーネー三人組の逞しさよ!よくもまああそこまでおやりになって、胸をぶるんぶるん震わせて正吉君に迫る・・・これにひたすら無言で抵抗、かわす正吉。女たちの本性を見切って命が危ないと思っているのか、とにかく本能的に厄を避けている姿が可笑しい。親父の骨を文字どおり拾うということで、それどころじゃないのかもしれないが、乾いた本能的な防衛に見えるから余計におかしみが湧く。
一番若い和歌子にその気にさせられ、はじめから気があった様子でもあるが、誘われてなにやらモゾモゾしているうちに相手は眠りこんでしまう。そそくさと立ち去る後姿のおかしみ。父のウタキをつくった後の、つかえのとれたような勢いと好対照。
動物面からヒト面に一瞬でひらりと裏返るマァマ。食中毒入院で下痢を洩し、居合わせた男に「出て行って」。メスから少女に一瞬で駈け戻ってしまうのだ。「もうこれで正吉に恋なんてできないのかね」・・・のしかかって「しようよ」って言ってたじゃん・・・