ほたるの星★ロケレポート  
機内〜萩ロケレポ by みずは
5/95/10・5/11

5月11日(日)
 ゆっくりと支度をして9時半に明倫小学校に着いた。昨夜から今朝まで降り続いた雨で、撮影は中止になったのではないかとも思ったが、校内に入ると、昨日と同じように撮影関係の車がずらりと並んでいる。でも、校舎の周りを見る限り、外で撮影が行われている気配はない。昨日のように見学者も見受けられない。ふと、校舎の2階を見上げると、人影があった。地面に視線を落とすと、そこここに今朝までの雨の名残りがあった。これでは外の撮影は無理なのだろう。2階から声が降ってきた。

 スタッフ「そこの窓のところで遊んでいて!!」
男の子「ねえ、ワンダースワン(だったかゲームボーイ)で遊んでてもいい?」
スタッフ「だめだ!! ここは学校なんだから!!」

 国道から1番目の校舎に男の子が、2番目の校舎にスタッフがそれぞれいて、窓から大声で会話をしているのだった。昨日ずっと大声を出していたスタッフだな、やっているやっている、と微笑ましい気分でその光景を見ていた。昨日よりも子どもたちの声が元気だったからほっとしたのかもしれない。建物の中での撮影なら今日は見られないな。私は頭をぱっと観光モードに切り替えた。昨日はあまり見なかったけど、この明倫小学校だって萩藩校・明倫館の跡地、萩の観光名所のひとつだ。いくつかの史跡を見て回った後、昨日の秋の景色を作り出していた場所に戻ってきた。

 紅葉した葉が地面にそっと置いてあった。これも撮っておいたら映画が公開された時に思い出せるかな、とデイパックの中からカメラを取り出し、シャッターを切った。カメラをデイパックに戻し、ぼーっと紅葉した葉を見つめていると、視界の左側に二人の男性を捕えた。視線をそちらに向けると、小澤氏と“チャパツのおにーさん”だった。飛行機の中で見かけた時と同じように、小澤氏はメガネをかけていた。洋服は…、どんなだっただろうか。私はそのまま自分のいる位置から動かず、目で見送っていた。そのまま建物の中に入っていかれると思ったその時、小澤氏が私の方を向かれた。私は心をこめて会釈した。そして、多分「おはようございます」と挨拶をした…ような気がする。次の瞬間、小澤氏は私の方に歩いてきて下さりながら、声をかけて下さった。

 「やっぱりそうだよね? 昨日いたからさ、こんなところにいるはずないなと思っていたんだけど…」

 私もニコニコしながら小澤氏に近づいた。普通、そう思うわよね、と心の中でつぶやいた。私が小澤氏とお会いした場所はいずれも関東なので、萩にいることを驚かれても無理はない。いや、私も自分でここにいる事実に驚いているのだ。そういう、思ったことを口に出せればいいのに、笑顔のままでいるのがやっとだった。その後も、二言三言と小澤氏が話しかけて下さったのだが、それにも、うんうん、と頷くのが精一杯だった。決してあがっていたのではない。むしろ、あがっていない自分に驚いた。こんなことを書くと読んで下さっている方々からお叱りの声が聞こえてきそうだが、私の耳は、普通に、知り合いの人が話しかけてくれている声として、小澤氏の声をとらえていた。ただ、頭の中が真っ白で、ぼーっとしていて、言葉が出てこない。小澤氏が投げかけて下さる、その言葉のボールを受け止めるだけで、そのボールを小澤氏へ投げ返せないで手の中で温めているだけ。言葉のキャッチボールをするというコミュニケーションが全然成立しないのだ。“チャパツのおにーさん”が側にいるということは、撮影時間ギリギリなのかなと気にしていたのも多少あるけれど、それ以上に、何も言葉が思い浮かばない自分に参っていた。ようやく口から出てきた言葉は

「撮影、頑張って下さい」

という、月並みな、しかもひょっとしたらプレッシャーにしかならないような言葉だけだった。その後、小澤氏は建物の中へと入っていかれた。ありきたりな私の言葉を聞いて、小澤氏はどう思ったのだろうか。何とかコミュニケーションを図ろうとしてくれていた小澤氏には申し訳なかったが、でも、あの時の私にはそれ以上言えなかった。いつまでたっても学習しない私を自分でもイヤになるのだけど、それも私なのだから、と受け入れるしかない。

 今日の撮影は建物の中みたいだし、思いがけず小澤氏とお話しできたから、撮影見学はこれでおしまいにしよう、そう思って、10時半頃、明倫小学校の門を出て、萩の町を観光することにした。

 時計を見ると、午後5時を回ったところだ。私は再び明倫小学校にいた。そろそろ子どもたちの撮影が終わる頃かな、と思って観光帰りに足を運んだ。渡り廊下のところを使って、外でのシーンを撮影しているようだ。出演している子どもたちのご父兄が撮影を見守っている。耳を澄ませていると、ご父兄の話が色々と耳に入ってくる。「あの子が準主役の子よ」とか、「3年1組が…」、とか断片的にしか聞こえないけれど、私には十分すぎる情報だ。前日会ったご父兄の方の話とも合わせると、ちょっとずつパズルが埋まっていく。やはり出演関係者や山口の人たちは、私とはくらべものにならないほどこの映画に関する情報を持っているんだなと思わずにはいられなかった。外でのシーンが終わると、次は教室でのシーンに移った。どうも、小澤氏が児童の出席を取っているようだった。この頃になると、太陽もかなり傾いていたので引き上げなければならなかった。お体に気をつけて、ご自分の納得のいく演技ができますように、と、その教室にいるであろう小澤氏に祈り、私は明倫小学校を後にした。

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