| 「ほたるの星」ロケ見学レポート(1) by ざわわ
萩で撮影があることは間違いないものの、平行して柳井でも始まっていることは分っている。しかし観光課に電話しても、どちらに主役がいるかまでは分りかねると言う返事だ。
賭けだった。萩から柳井まで足を延ばしては、日帰りでは無理だ。(最初はそのつもりだったが)
東萩駅から撮影現場まではタクシーだと5分足らずだが、ゆっくり近づきたく、歩くことにした。小学校が見えてきた。校門の前、校庭にたくさんの車が止まっている。11時半、セットの準備中のようだ。校門の前にパイプ椅子が2脚、ドラム缶の灰皿が置いてあり、警備のおじさん、2〜3人のスタッフ、出演している子供たちの親が何人かいて、ランドセルをしょった小学生がつぎつぎと校内に消えてゆく。(出演している子。土曜日で学校は休み)
一人のスタッフをつかまえて(実はこの方は助監督のおひとりだった)見学をさせて欲しい旨を伝えたところ、それは出来ないとのこと。ここでだったら構いませんよ、というお返事だった。素人の子供たちに演技をつけるのは大変でしょう?とお聞きしたら「いや子供のほうがいい演技をすることがありますよ」とのお答えが返ってきた。
いろいろ質問していると、白いTシャツを着た背の高い男性が中から出ていらして私の横に立ち、たばこに火をつけた。
その男性の方に目をやると、なんと小澤氏ご本人だった。一つのシーンを撮りおえた直後だったのか、若しくは次のシーンが控えているからか、緊張がはっきり見てとれた。その距離約30cm、右をこちらに向けた横顔。う・つ・く・し・い。これ以外に表現する言葉を持たない。
あまりにあっけなくお会いできてしまった事実に頭の中が混乱、助監督との話を勝手に打ち切るわけにはいかないが、小澤氏とも話したい。その瞬間「オザ観会二号」のスイッチが勝手にONされてしまい、
「あのう、ひとつお伺いしますが」
「はい」
「小澤さんは、この映画の中で山口弁をお話しになるのですか?」
と質問してしまっていた。
「いや、僕はしゃべらないっす」
「そうですね、東京からきた先生ですものね」
「はい」
「期待していたんですが. . . 」
「. . . .」
という話になってしまった。ああなんということ。ファンですとか応援しています云々が言えない質(たち)なのか。(--;
テンションの低いしゃべり方に達也が見えた、ような気がした。けれどこれ以上は話すべきではない、お邪魔をしに来たわけではないと、何かを考えるように目を遠くに向けている小澤氏を見て、心を抑えた。やがてゆったりした歩調で校内に戻られた。
* * *
撮影が始まった。渡り廊下で小澤氏と主役の子が向かい合って話をしている、そこに子供たちがワーッと駆け寄ってくる。これは、別々に何度もテストをした後、一つのシーンにするようだ。小澤氏が左手にバケツを持ち、歩くアップ(?)のシーン。残念ながら遠くて表情は見てとれない。先生に水をかけ、はしゃぐ水着姿の子供たち、など5シーン。
子供たちにも容赦なく厳しい言葉が飛ぶ。「わーとかぎゃーとか言わないではしゃぐ」なんて小学生には難しいだろう。何度も子供たちの演技にダメ出しがでる。そのたびに元の位置にもどる小澤氏と子供たち。もう6時に近く、少し肌寒い。
先生の服装?ジャージではなく、淡いクリーム色の半そでのカッターにベージュの綿パン、濃い色のベルト。髪は黒っぽく、短め。あくまでも、普通の小学校の先生のいでたち。
毛布をからだに巻きつけた小澤氏が(なぜそうしているのかは、映画をご覧になるまでのお楽しみに、ということで)旅館のマイクロバスに乗り込む瞬間、たまたま見学に来ていた60代くらいのおばちゃんが二人「小澤さ〜ん、応援してますよ〜!」と叫ぶと「ありがと〜ございま〜す!」という聞き慣れたテンションの高い声。「わあ〜、返事してもらえた〜。」あれは「杉さま〜」のノリだったなぁ。あっけにとられ、自分はああは決してなれないだろうと思ったが、うらやましい人達ではあった。
小澤氏は、シーンの合間に何度か息抜きに外に出てこられて、たばこを吸いながら考えこんでいたり、スタッフの方々と話をされたりしていた。
見学者は独りだけだった、と前に書いたが、時々通りすがりの人が足を止め、しばし眺めてはいたりはする。が、何分もしないうちに立ち去ってゆく。だからまあ独りだ。
スタッフのお一人に明日も伺ってもよろしいでしょうか? とお聞きしたら「どうぞ」とおっしゃる。ときどきパイプ椅子にかけさせて下さる。ありがたいことだ。ということで、急きょ駅前の宿に泊まることにする。
* * *
18日(日)9時ごろ小学校へ。他のスタッフと共に椅子に座っている小澤氏が見える。山本未来氏と話の真っ最中なので離れたところに立つ。「好きにやって下さい」と言う声は正吉だぁ〜。やがて校内へ。
校門のところに移動。顔なじみになったスタッフの方が「おはようございます」とつぎつぎに声をかけてくださり、気が楽になる。割に近いところに昨日はなかった花壇がしつらえてあり、「ここで?」と期待したが、きょうはほとんど教室での撮影だとわかり、足も限界に達していたので早々に引き上げることにした(出来上がった写真を見たら、花壇は元々あったものだということが分かった。目の前にあったのに、興奮して見えていなかったのだ)
。
昨日の会話があとを引いていたのだが、もうお会いすることも叶わないだろうと諦めかけたとき、小澤氏が一人ででてこられた。右手に紙コップ、左手にたばこ。まわりには誰もいない。一瞬目が合ったので万感の思いをこめて(笑)深ぶかとお辞儀をした。するとやはりお辞儀で返してくださり、椅子に座ってコーヒー(?)を飲みながら台詞を口にしておられた。背中を少し丸めて一人、役に入りこんでいる姿はいまも目に焼き付いている。全部飲み干して、ドラム缶灰皿の中にたばこを押し付けて火を消し、ゆっくりと一歩一歩踏みしめるように現場に戻ってゆかれる後ろ姿を追いながら、みずはさんのお言葉をお借りして申しわけないが、神様はいると思った。
今回、お目にかかった小澤氏はお茶目でもなく、サービス精神が旺盛なひとではなかった。
「役者である小澤氏」ではなく「役者・小澤征悦」いや、ひたすら演技という表現と戦っている「人間・小澤征悦」だった。
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